2015年08月14日

「第3弾 生徒会役員の密かな謀」ショートストーリー掲載


〜第3弾 生徒会役員の密かな謀〜紹介ムービー、ご覧いただけましたでしょうか?
ちょっとアダルトな空気が漂うエイチ先輩と参納くんです。
「男子高校生、はじめての」シリーズはすべて同じ学校の生徒たちで、第2弾で登場した二見と彼らは生徒会のメンバーとなります。
第3弾本編には登場しませんが、二見会長の存在が鍵ともなっているので、シリーズを続けて聞いていただけると、より楽しんでいただけるのではないかと思います!

さて、今回はクールで落ち着いた雰囲気をまといつつも、
参納→→→→→→→→→→→→エイチ→?
という長大な矢印が見え隠れする参納視点の前日譚ショートストーリーを公開します!
犬系年下男子が猫系美人な先輩にくすぶらせる恋心の行方は……、ぜひ本編でお楽しみください♪


捕食者のスキーム
(文:GINGER BERRY)



 木乃実学園は都内にある共学の私立校だ。
 進学率は高く、部活動も運動部文化部共に盛ん。都心からもアクセスもよいので、そこそこ人気がある。だが、かといって突出した特色はない。平均的にできの良い、平凡な高校だ。
 そんな中で、少しだけ異質な存在がある。
 二見琉生が会長、北谷映一が副会長を務める生徒会だ。

*   *   *   *   *


『参納。お前、生徒会に入んねー? 今、ひと足んねーんだわ』

 この春から、北谷映一、通称エイチ先輩に勧誘され、生徒会に所属して約5ヵ月。会計となった俺を含め、3名の男子だけで構成された生徒会は、学内の注目を浴び続けている。
 アイドルグループさながらファンクラブが作られ、女子達は彼らに必要以上に近寄らないよう、互いを牽制しあう。
 生徒会メンバーの中でも、王子様のようなビジュアルで、すべてをそつなくこなす、二見会長の人気は絶大だった。そして会長と、彼を影ながら支えるエイチ先輩のふたりを『キングとナイト』と名づけ、妄想して楽しんでいる女子生徒もいるらしい。

「二見会長、今日は部活ですか?」
 放課後、生徒会室に足を踏み入れると、エイチ先輩がひとりパソコンに向かい、マウスを操作していた。
「おー。少し走ったら、こっちにも顔出すってよ」
 志望校は指定校推薦が確実と言われる二見会長は、陸上部のエースだったこともあり、国体まで部活を続けるという。けれど、来月頭に文化祭を控えた生徒会も、やらなくてはいけないことが山のようにある。元々部活にも熱心だったが、ここまで彼が陸上に執着するなんて意外だった。
「何かお探しですか?」
 眉間に皺を寄せて、モニターを睨みながら、マウスをカチカチと鳴らしているエイチ先輩に声をかけると、一枚の書類を差し出してきた。
「この間急遽決まった、軽音同好会の文化祭ゲリラライブ、予算まとめてきたから表に追加したい」
「入力なら俺がしておきますよ」
 書類を受け取り、エイチ先輩と入れ替わりにパソコンの前の席につく。基本的にファイルの管理は、会計である俺が担当していた。
「この段階でゲリラライブに許可出すなんて、本来ならありえないですよ」
 許可を出したのは、二見会長だ。
「いーじゃねーか。面白そうな企画だったし。文化祭が盛り上がんのが一番だろ」
 この案件を通すために、エイチ先輩が教師や他の実行委員に頭を下げて、根回しをしていたのを俺は知っている。
「本当に盛り上がるなら、それでもいいですけど」
「大丈夫だって。昔から琉生はそーゆーとこ、外さねーから」
 エイチ先輩と二見会長は、中学から陸上部のライバル同士だったという。けれどきっと、それ以上の感情をエイチ先輩は会長に抱いている。
「おー。早ぇー早ぇー」
 窓の外に少し身を乗り出し、感嘆するエイチ先輩が、何を見ているかなんて確認しないでもわかる。
 生徒会室の窓からは、陸上部のトラックが見下ろせる。ふとした拍子、エイチ先輩が仕事の手を止めて、練習風景を眩しそうに眺めていることに、生徒会に入ってすぐに気がついた。
 それは二見会長が生徒会室にいるときには起こさない行動だった。
「エイチ先輩。入力終わりましたけど、他に急ぎの件って何かあります
か?」
 それに気づかないふりをして、俺は淡々と仕事をこなす。
「あー…、今週末の実行委員会の議事録、そろそろ作んねーとだな」
「わかりました。それは俺が作ります」
 過去の議事録のファイルを開きながら、エイチ先輩に目を向ける。
「完成したら声かけるんで、それまで少し休んでいたらどうですか?」
「あ?」
 怪訝な顔をして振り向いたエイチ先輩の目の下には、うっすらと隈ができていた。
「寝不足の顔をしてますよ。さっきモニターを見ていたときも、目がかすんで見えづらかったんじゃないですか?」
 国立受験を控えたエイチ先輩は、2学期になり追い込みの時期を迎えていた。それに加え、先輩は勉強以外にしなくてはいけないことを他にも抱えていた。
「……おう。目ざといなー、お前」
 初めて会ったときよりも少し削げた頬を強張らせて、エイチ先輩が笑う。
「5分でも寝れば、頭がすっきりしますよ」
 エイチ先輩が父親を交通事故でなくしたのは、1年の冬だと噂で聞いた。口には出さないけれど、それからずっと先輩は、割りのいい警備や現場のアルバイトを続けている。
「悪ぃな。じゃー、ちっと寝させてもらう」
 こんなときに、眉を寄せて困ったように笑うエイチ先輩の顔が、俺は嫌いだった。
 返事をせずに、無言でテキストを打ち続ける。タイピング音の向こうで、机に顔を伏せてエイチ先輩が眠り始める気配を感じた。
 こうでもしないと、彼は自分を誤魔化して「頑張り」続ける。
 ほとんど初対面だったエイチ先輩に生徒会へ誘われて、一緒に時間を過ごすようになってから、彼を知れば知るほど日々苛々とすることが増えていた。
 二見会長に全幅の信頼を寄せ、自らを捧げるような眼差しに。
 どんなことも何でもないように受け入れて、背負い込んで、飄々と笑う態度に。

 俺が全部、ぶっ壊してやりたくなる。

 打ち終わったファイルを保存すると、窓辺の机に伏せたエイチ先輩にそっと歩み寄る。
「エイチ先輩……」
 起こす為にかけた声としては、囁きめいたものになってしまった。まるで、本当に寝ているかどうか、確認するかのように。
 柔らかい猫ッ毛の髪に覆われた、小ぶりな頭を乗せたエイチ先輩の手首が、交差した状態で目の前に晒されていた。
 指先で触れると、硬くて少しかさついた男の肌の感触がした。細いけれど骨ばった手首は、俺が力いっぱい握りしめても、きっと折れることはない。
 歯を立てても、容易に砕かれることもないだろう、噛みごたえがありそうな身体だった。

「……そんな無防備に寝ていると、飢えた獣に食べられてしまいますよ?」


(END)

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posted by GINGER BERRY at 17:44| 第3弾生徒会役員の密かな謀