「男子高校生、はじめての」
〜第6弾 甘やかしてよセンセイ〜
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第6弾はシリーズ初の生徒×先生!
ドラマCD本編が始まる少し前、六甲視点のお話です。
いつもは受視点のこのビフォアストーリーですが、「男子高校生、はじめての」ということで、生徒である六甲からの物語となりました。
どうやら色々と抱えているようで……。
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毒林檎
(文:GINGER BERRY)
毒林檎
(文:GINGER BERRY)
夏休みが明け、木乃実学園は文化祭に向け盛り上がりをみせている。
生徒会の活動内容から無駄を省き、誰にでも運営できるよう簡略化することに余念がない参納生徒会長も文化祭だけは特別なようだ。
どうせ「美人の大学生」と噂の恋人に、いいところを見せたいのだろう。
おかげで平役員の僕まで、それなりに忙しい。
担当は文化祭当日に使用する教室の割り振り。
どこも客入りのいい場所を取りたがるから、調整には難航が予想される。面倒だが仕方ない。
さっさと済ませてしまおうと、昼休み、こうして各部や学年を回っている。
そもそも僕は生徒会とは無縁だった。
でも、うちのクラスの生徒会役員だった女子が、交換留学生としてアメリカにある木乃実学園の姉妹校に行ってしまった為、誰もやりたがらないそれを代わりに引き受けることになった。
「そつなく感じのよい六甲くんとしては、その程度の期待には応えておくべきだろう」そんな意図だったのに、僕はいま、『校内好感度ナンバーワン男子』らしい。なんだかなあ。
でも、おかげで学園生活は順調だ。それでよしとしておくことにする。
「あれ、六甲先輩? なんか用ですか?」
2年の教室を訪れると、同じカフェでバイトをしている後輩の杉本有が声をかけてきた。
ちょうどいい。
手に持った書類をヒラヒラと振ってみせる。
「文化祭の書類を持ってきたんだけど、誰に渡したらいいかな」
「あー、それなら高木かな。えっと……今いないみたい。オレ、渡しときます」
「よろしく。記入して生徒会室に持ってくるように伝えてもらえる?」
「はーい。……それより、先輩。すみません。」
「なにが?」
「このところ、全然シフト入れなくて」
有は、見かけのチャラさとは違って、他人に気を遣う。
だから、映画研究会で彼を主演に映画を撮ると決まってから、バイトに来られなくなったことを気にしているらしい。
別にサボった訳でもないし、恐縮する必要なんかないのに。
でも、使える有が勝手に恩を感じてくれるならば、僕にとっては都合がいい。
できるだけ恩を売ってやろうと、ニッコリ微笑む。
「大丈夫だよ、その分、僕が入っているから」
「いま週5で入ってくれてるって、他の子から聞きました……」
「無理はしてないよ。心配してくれてありがとう」
そう言うと、有は申し訳なさそうな顔をする。母性本能をくすぐりそうな、いい表情だ。こういう顔されたら、女の子は弱いんだろうな。さすが主演男優。
まあ、残念ながら僕はなんとも思わないけど。
それに多めにシフトを入れている理由は有の為じゃない。あの人が来るからだ。そもそも、あのカフェにバイト先を決めたのだって、あの人の家の近所だから。それだけ。
でも、そんなこと、別に誰かに言う必要はない。
「それじゃ、書類よろしく」
午後の授業が始まるチャイムを聞きながら、踵を返して美術室へと向かう。
火曜日の5時間目。
これから2時間は、央田センセイと、二人だけの時間だ。
木乃実学園はどこにでもある、ごく普通の共学高校だ。
そんな中で、少しだけ異質な存在がある。
ひとつは去年の生徒会。
そして、もうひとつが美術の央田センセイだ。
ブリーチした髪。耳には軟骨ピアス。およそ教師らしからぬ風体の彼がこの高校に職を得ることができたのは、うちの理事長と関係があるからだと噂されている。
だが『関係』の内容は曖昧で、縁戚関係や師弟関係だとも、実は隠し子であるとか愛人であるとも言われている。
要は誰にもわかっていない。
彼の周りはそんな噂ばっかりだ。
しかもセンセイが否定も肯定もしないものだから、様々な噂が一人歩きしている。
それをすべて知っていて、センセイはまったく気にしていない。
いつもひとりで、気ままに、学園のなかをフラフラしている。
教師の間で、彼の評判はすこぶる悪い。当然だろう。
そんなセンセイのことが、僕は好きだった。
すごく、特別に。大好きだ。
* * * * *
スケッチブックに木炭を走らせる音が、静かな美術室に広がる。
日当たりのよい窓際でクーラーの風で涼みながら、央田センセイはいまにも眠りに落ちそうだ。
「眠そうですね、央田センセイ」
「あー……昨夜、友だちと飲んでたらさあ……」
言いながら、大きなあくびをひとつ。
うーんと伸びをする姿はまるで猫のようだ。
細めた目も、しなやかな身体も、その気ままな態度も。
「センセイ、セフレは友だちに入りませんよ」
「六甲クン? それ、どういう意味かな? 俺にだって普通の友だちくらいいるんだけど」
「……意外です」
「なに、そのわざとらしい驚き顔」
「可愛くないですか?」
「ないよ。なに、女子にカワイーとか言われてるの? モテ自慢?」
まったくムカついてなんかいない顔でそんなことを言って、センセイはもう一度大きくあくびした。そのまま、窓の枠に突っ伏すと目を閉じる。
「拗ねたフリして寝るの、やめてください」
「描けたら起こして。見てやるから」
「ロクでもない教師だなあ」
「お前には丁度いいだろ」
目を閉じたままニヤリと笑うと、差し込む光を避けるように腕に顔を潜り込ませる。
どうやら本気で寝るつもりらしい。
僕がセンセイとのこんな会話を、どれほど大事に思っているか、わかっているのかな?
……わかっているのかもしれない。それでも、センセイはこうなのかもしれない。
こういう時、自分をとても子供に感じる。
軽くあしらわれても、その距離を埋める術がない。
「センセイが寝たらサボりますよ、僕は」
「どーぞ、ご自由に」
モゾモゾとそんなことを呟いて、そのあとは静寂。
まあ、いいけど。
ひとつ溜息をついて、僕はデッサンを続けることにした。
布の上に置かれたリンゴとレモンと花瓶。
絵画に興味なんか全くないのに、こうやって美術の授業をわざわざ選択したのは、センセイとのわずかな接点を維持する為だ。
ほぼ全員が進学希望の特進科において、芸術科目を選択する生徒はほとんどいない。だから色々と画策して、みんなには他の芸術科目を選択するように仕向けさせてもらった。
その結果、僕は週に2時間分、センセイと二人きりの時間を手に入れることができたわけだ。
木炭が紙に擦れる音に混じって聞こえてくるセンセイの微かな寝息が、耳に心地よい。
クーラーからそよぐ風が、色素の薄い髪を揺らす。
美しいひとだ。と何度も思ったことをまた思う。
白くすんなり伸びた首筋も、薄い唇も、形のいい鼻も、どこもかしこも作り物めいている。
あの唇に、僕の性器をねじ込みたい。
整った顔が、僕のせいで歪む様が見たい。
そんな欲望を弄びながら、木炭を走らせる。
いつまにかデッサンのリンゴは、まるで毒林檎のように黒く塗りつぶされていた。
僕の欲望そのままに、執拗にどす黒く。
このリンゴを、あなたに、食べさせたら。
僕の毒で染め上げてしまったら。
センセイはまだ眠っている。
僕はデッサンを描き続ける。
静かな美術室で、僕らの熱は発酵していく。
この高校にいられる時間もあと半年ちょっと。
その間に僕はあなたを手に入れることができるだろうか。
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