2018年06月27日

第9弾ショートストーリー掲載




久世と響己のキャラクター紹介ムービー、ご覧いただけましたでしょうか!? 今までにない距離感が、今回のふたりならではかも…?



今日はドラマCD本編が始まる前のお話を久世視点のSSでお届けします!
人気アイドル・響己の大ファンである久世。密かに響己を応援する彼に訪れた、不本意な衝動とは……?


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不埒なプラトニック
(文:GINGER BERRY)



 スポットライトによって暗闇に浮かび上がる9つの影。それぞれ煌びやかな衣装に身を包み、一身に歓声を浴びたまま、ステージに佇んでいる。
 一挙一動を固唾をのんで見守る観客の視線は、中央に立つ人物のマイクに注がれ、彼の合図を今か今かと待ち望む。
 観客の焦れた心を弄ぶように、ゆっくりとマイクが口元に運ばれると、ちらりとのぞかせた赤い舌が唇を舐る。
「Are you ready?」
 割れるような歓声をバックに奏でられる、吐息交じりのハスキーな歌声。
 高階響己は『Ninth』の絶対的センターだった。

「はああ〜〜〜。やっぱり去年のコンサート、生で見たかったなあ……」
 エンドロールが終わり、メニュー画面に切り替わる。このコンサートDVDの再生回数はもう数えきれない。
 俺がアイドルグループ『Ninth』の高階響己くんを好きになって、まだ三か月。他のグループとの合同コンサートにはなんとか行けたけど、本音を言えばもっとたっぷりと彼らのライブを楽しみたい。きっと今年の夏も単独コンサートをやってくれるに違いない、と期待に胸を膨らませながら、去年のコンサートDVDをこうして毎日のように鑑賞する日々を送っている。
「体熱い……。見てるだけで興奮してたみたい……」
 シャワーでも浴びようと立ち上がりかけ、股間の濡れた感触に気づく。
「うわ…、なに……」
 慌ててパジャマのズボンを引っ張って確認すると、下着の中が白い粘液でどろどろになっている。
「もしかしてこれ………」
 神様に誓ってもいい。響己くんのDVDを見ながら、いやらしいことなんて何もしていない。ただただ夢中になって見ていただけ。指一本、自分の体なんて触れてない。
 それなのに……。
 自分を抹消させたい気持ちでいっぱいになりながら、その夜俺はこっそり下着を洗った。

×  ×  ×  ×


 8時30分。
「そろそろかな……」
 スマホの時計表示がいつもの時間を指し示すと、朝の騒がしい昇降口の空気に色めき立つのがわかった。
「来た…!」
 下駄箱の影から、響己くんが上履きに履き替えるところをそっと見守る。
 きっと疲れてるし、眠いはず。でも今日も響己くんのビジュアルは完璧だった。長めの後ろ髪をゆるくうなじに流すヘアスタイルに乱れはなく、肌もツヤツヤに輝いてる。
「響己くんだ。朝から見れてラッキー」
 通り過ぎる女子たちがコソコソと話す声が聞こえてくる。心の中で彼女たちに教えてあげる。
「この時間に昇降口に来れば、必ず響己くんに会えるよ」
 アイドルとして多忙なスケジュールをこなす響己くんだけど、できるだけ朝には仕事をいれないようにしているらしい。早退することはあっても、毎日必ず、HR10分前に学校にやってくる。前日、夜遅く仕事をしていたであろう日も、必ず。
「えらいよなあ。俺なんてゲームで夜更かして、遅刻することもあったのに」
 素行不良のグループだと、マスコミは『Ninth』のゴシップを書きたてるけれど、学校で響己くんが問題を起こすことなんてない。
「今日もカッコいいな…。響己くん……」
「なにブツブツ言ってんの、久世っち」
 ふいに肩を叩かれ、飛び上がって驚く。
「うわあ!」
 振り向くと同じクラスの野口さんが立っていた。響己くんの先輩グループのファンで、最近まで3次元のアイドルのことを全く知らなかった俺に、いろいろと教えてくれた親切な女子だ。
「あ、響己くん、いっちゃったよ。声、かけなくていいの?」
 野口さんが指さす先には、教室に向かって歩いていく響己くんの後ろ姿があった。
「あ、うん……。迷惑だと思うし……」
 もちろん、それもあるけど。昨晩してしまった自分の失態を思い出すと、響己くんに向ける顔なんてあるはずない。
「えー? もったいない! 響己くん、意外と優しいって聞いたよ」
「う、うん……」
 テレビで見るとおり、クールで男らしくカッコいい響己くんだけど、挨拶くらいならちゃんと返してくれる。本当はちゃんと礼儀正しいことを、俺は知ってる。でも、そんな風に素の響己くんを知っていることは秘密だ。
「HR始まるし、もう行かなきゃ」
「そだね。行こっか」
 会話を切り上げて歩き始めた俺に、野口さんが一緒についてくる。野口さんが好きなアイドルグループの話を聞き流しながら、2年の教室にむかった。

×  ×  ×  ×


『オレが踊ってたの、いつから見てた?』

 あれは、ゴールデンウィークを過ぎたあたりのことだった。
 そのとき俺がはまっていたのはスマートフォンでプレイするアイドルゲーム。大好きだったキャラのカードがもらえるイベントをやっていて、必死にランキングをあげていた。
 4時間目の授業をサボって屋上にやってきた俺は、仕事に行く前にダンスの自主練をしていた響己くんに出会った。
 三次元のアイドルにまったく興味がなかったのに、ゲームを忘れ、ただ見入ってしまった。そのくらい、響己くんのダンスは、惹きつける力があった。
 指先の動き、回転する際の体のひねり方、些細な動きでも響己くんの個性がある。それは集団で同じダンスをしなくてはいけないという意味では、輪を乱すものだ。でも、響己くんに魅入られてしまったら最後、視線を外すことができなくなる。

『テレビとか、コンサートだったら、いくらでも見ていいよ。それがオレの仕事だし』

 自主練をこっそり見てしまっていたことを謝ると、響己くんはそう言ってくれた。だからそれ以来、テレビ番組を録画し、DVDを集め、コンサートを申し込んで、今ではすっかり高階響己のファンになった。
 初めて出会ったときは、響己くんがどんなにすごい人か知らず、恐れ多くも話しかけてしまった。それをきっかけに俺の家のレッスン室を自主練として使ってもらうことになったけど、極力邪魔をしないように気を付けている。
 ちゃんと分をわきまえないと……。

「……お邪魔します」
 夜、9時。仕事を終えてやってきた響己くんを地下のレッスン室に案内する。
 俺様でドSで不良だと言われてる響己くんだけど、うちに来るときはそんな素振りはない。限られた時間を無駄にすることなく、ひとり黙々とダンスの自主練に励んでいる。
「……じゃ、じゃあ。帰るころに内線鳴らしてくれたら……」
「久世サンさ、練習、見ねーの?」
 レッスン室を後にしようとした俺に、響己くんが声をかけてくれた。
「えっ、いいの?」
 最初に自主練を見てしまったとき、バツが悪そうな顔をしてた。だから、あまり見られたくないのかなって思ってた。
「……興味ないならいいけど」
「そんな! 全然ある!!」
「じゃ、着替えるからちょっと待ってて」
 俺があまりにも勢い込んで返事をしたから、響己くんが制服のシャツのボタンを外しながら笑う。
 ついさきほど隣に立っていたときに微かに香ってきたいい匂いが、シャツの前を開いたとたん、ふわりと漂ってくる。
 ちらりと白い胸元が覗き見えた瞬間、どくんと体の奥が熱く脈打つ。
「あ! あの、や、や、やっぱり、用事思い出したから、部屋戻るね…!」
 もうこれ以上、響己くんを見ていられず、床の板張りを見つめながら、声を張り上げた。用事なんて、何もないのに。
「……あっそ」
 感情のない響己くんの声が、どこか遠くから聞こえてきた。
「ゆっくりしていって……!」
 慌ててレッスン室の扉を開けて、廊下に飛び出す。防音の重いドアがガチャンと音を立てた瞬間、その場に座り込んでしまった。
 テレビとか雑誌とかで、響己くんの上半身の裸は見たことある。でも……やっぱり生の破壊力はすごい。
「……すごい。響己くんって実在してるんだ……」
 手を伸ばせば触れられる。ステージの上で輝いていた、あの白い肌に。
 そう思っただけで、熱を帯びた体の奥が痛いくらい張り詰める。
「だめだ……!」
 身の内に邪な欲望の気配を感じて、立ち上がる。
 今、俺は何を考えた……?
 一生懸命、ダンスの練習をしている響己くんに対して抱いてしまった、己の不埒な妄想が許せなかった。エレベーターを使わず、三階の自室に階段で駆けあがる。脳に酸素がいかなくなって、クラクラしてしまったけれど、ちょうどいい。
 響己くんが帰るころには、この熱をどうにかしないと……。

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posted by GINGER BERRY at 19:01| 第9弾Kiss me plz, My IDOL