男子高校生、はじめての
〜第14弾 先輩を好きでいていいですか?〜
9月30日発売!
〜第14弾 先輩を好きでいていいですか?〜


お待たせしました!
「男子高校生、はじめての」5thシーズン
いよいよスタートです!!
トップバッターの第14弾は
水泳部の先輩後輩カップル☆
ほろあまクールな兄貴分・四葉康宏
cv 阿座上洋平
×
健やか愛され後輩・金森空良
cv 鈴木崚汰
本日は、空良が高校に入学して二ヵ月が過ぎた頃のエピソードをお届け!
憧れの四葉先輩がふと見せてくれた表情に空良はー−?
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始まりの季節
(文:GINGER BERRY)
始まりの季節
(文:GINGER BERRY)
中学三年の春、たまたま目にした高校のPR動画。クラスの女子が、好きなアイドルが卒業した学校だと教えてくれた。その動画に惹き込まれるように、何度も再生ボタンを押していた。
ここで高校生活を過ごしてみたい。
学校のホームページを調べると、学生たちが自主性を持って参加する文化祭や体育祭の写真や、卒業生たちの華々しい活躍も掲載されていた。正直、家から通うには少し遠いし、成績も普通科でギリギリのボーダーライン。そのときの俺には高望みの志望校だった。でも目標ができた受験勉強は楽しかった。
背伸びした先には、どんな景色が広がっているんだろう?
そのワクワクを抱えて、俺はこの春、木乃実学園の一年生になった。
埼玉県から東京に入る手前、電車は大きな川を渡る橋の上を走る。ビルやマンションが並ぶ車窓の風景がぱっと開かれて、飛び込んでくる空の青と木々の緑。日に照らされてキラキラ輝く水面。その鮮やかさで目を覚ますのが、毎朝の日課だ。
学校まで電車を乗り継いで1時間ちょっと。満員電車は大変だけど、こうして窓から見える景色の移り変わりを見るのが好きだった。
「お客様、ご案内です」
途中で停車した駅で、駅員さんのアナウンスが聞こえてくる。ちょうど優先スペースの近くに立っていたため、乗車してきた車椅子の男のひとが目の前で止まった。再び電車が動き始め、足の指にぎゅっと力を入れる。揺れた拍子に倒れ込まないように。
ぐうっと電車の加速で負荷がかかったとき、車椅子の男性の顔に隣に立った女性のバッグが当たりそうになる。バッグを肩にかけて持った女性は、こちらには背を向けていて、イヤホンをしている。この事態に気づいていなそうだった。車椅子の男性はじっと目を閉じたままだ。
イヤホンをしている女性の肩をトントンと叩く。振り返ってこちらを見た女性に伝わるように、口パクで状況を伝える。
「(バッグ、前、抱える)」
自分が肩にかけたスクールバッグを胸の前に移動させて、ぎゅっと抱きしめる。怪訝そうな女性の視線を誘導させるように、車椅子の男性を見やる。状況を理解した女性はぱっとバッグを前に抱え直して、ぺこりと頭を下げた。
数分後、乗り換え駅に到着し、乗客の流れに乗ってホームに降りる。さて、ここからもう一本乗り換えだ。
「金森」
背中から声をかけられて振り向くと、そこには水泳部の上級生、四葉先輩が後ろを歩いていた。
「おはようございます! 四葉先輩!」
同じ路線を使っているのは知っていたけど、こうして駅でばったり会うのは初めてだった。入部して約二ヵ月。大人びた雰囲気を漂わせる四葉先輩とは部活以外であまり話せていない。学校の外で会えるなんて今日はラッキーだ。
「はよ」
隣を歩く先輩のほうからふわりといい香りがしてくる。制汗剤ではない、甘い香りだ。衣替えしたばかりのむき出しの二の腕が触れそうで、なんだかそわそわする。
「お前、電車の中でスマホって見ないんだな」
突然の質問に、もしかして先輩と同じ車両にいたのかなと思い当たる。ホームで声をかけられるまで全然気づかなかった。
「はい。俺、車窓の景色を見るのが好きなんです」
先輩が乗ってくる駅は、川を通り越した先だったと思う。あの綺麗な景色を先輩にも見てもらいたいから、少し残念だ。
「ふうん。……なんかお前、視力良さそう」
「はい! 両目2.0です!」
明日も同じ車両に乗ろう。また先輩に会えるかな。仲良くなったら電車の中で一緒に同じ風景を見れる日もくるかもしれない。
* * * * *
「おい、マジかよ〜。もったいね!」
部活終わりの更衣室。賑やかな笑い声を響かせるのは二年生達だ。クラスの友達がいうには水泳部は木乃学の中でも有名な陽キャの集まりらしい。四葉先輩は他の先輩たちのように大きな声で笑ったり、輪の真ん中にいたりするわけじゃないけれど、グループの中心にいる。何か意見が違えるとみんな四葉先輩を見る。水泳部の活動の中で、四葉先輩がどれだけ信頼されているか伝わってきた。
「なあ、金森。信じられる? 白岡のヤツ、彼氏持ちの幼馴染のこと、ずーっと好きで童貞なんだぜ?」
突然、深谷先輩に肩を抱かれ、話しかけられる。暴露された白岡先輩がチッと舌打ちした。この間の合コンでいい雰囲気になった女の子を、やっぱり他に好きな子がいると振ってしまったそうだ。諦めて他の子を見つければいいのに、他の先輩達は口々に言う。
「あの、白岡先輩。その幼馴染のひと、ずーっと好きって何年くらいですか?」
俺は童貞どころか、ひとを恋愛的な意味で好きになったことがない。仲間にからかわれても捨てられない『好き』をどれだけの年月抱えてきたのか、純粋に気になった。
「……わかんねぇ。小学校入る前からだから十年以上だよ」
答えながら白岡先輩の耳がどんどん赤くなっていく。さっきまでうざそうに顰めていた眉毛が、いつの間にか困り笑いの形に変化していた。
「十年! すごい!」
どれが白岡先輩にとって正解かは俺にはわからないけれど、そんな一途な気持ちを十年も持ち続けていることはすごく素敵だと思った。
「それは、大切ですね」
「……まあな」
白岡先輩がはにかんで笑うと、それまで騒いでいた先輩たちの空気がふっと緩む。みんな目を見合わせ、「しょうがねえな」と深谷先輩が笑い、「そういえば駅前にできたラーメン屋さ」と違う話題に移り変わっていった。
「金森」
着替え終わり、もうあとは荷物を持って帰るだけになったとき、まだ水着姿の四葉先輩に声をかけられる。副部長である四葉先輩は練習後も部長やコーチと話したりして、いつも帰りが遅い。
「お疲れ様です」
ぺこりと頭を下げる。最近先輩の水着姿を前にすると、鍛え上げられた上半身をじっと見つめていたいような、見ていると落ち着かないような、不思議な心地になる。
「前に使ってたパドルチューブ、お前にやる」
手や足をひっかける部分のついたチューブのトレーニング器具だ。
「いいんですか? もらっちゃって」
「オレはもっと強いの使ってるから」
中学まで入っていた体操部は木乃学になくて、どこか運動部に入りたいと思っていたところ、四葉先輩の部活動紹介を聞いて、水泳部に入ることにした。
新入部員は俺ひとり。体育の授業でくらいしか泳いだことのない初心者の俺に、いろいろアドバイスをくれたのは四葉先輩だった。
「ありがとうございます! 家での自主トレに使います!」
初めて手にしたトレーニング器具にテンションがあがる。しかも四葉先輩が使っていたもの!
「そんなに張り切んな。肘を立てて、丁寧に、ストロークの形を覚えられればいい」
「わかりました」
部活中チューブを使ったトレーニングをしたときの指導を頭の中に思い描く。
「お前、体幹はしっかりしてるから、あとはストロークを強化すればもっと速くなる」
「……はい! 頑張ります!」
入部当初、四葉先輩に「うちは緩い活動しかしてないから、運動できるなら他の部にいったほうがいい」と言われ、あまり歓迎されていないのかと思った。でも活動をしていくうちに、「副部長として当たり前」といいながらいろいろアドバイスしてくれる先輩は、誠実で責任感が強いひとだとわかった。
「そうだ。先輩にこれ」
バッグから小さな袋を取り出して、先輩に差し出す。中にはヘアゴムが入っている。
「この前、ヘアゴムが切れちゃったって言ってたんで、よかったら使ってください」
「……クマ?」
先輩が袋からヘアゴムを取り出すと、ちょっとびっくりした表情を浮かべている。
「あっ、やっぱ先輩には子供っぽすぎますよね……」
弟と行った雑貨屋で見つけてつい買ってしまったけれど、クマのキャラクターの飾りがついたヘアゴムは、大人っぽい先輩の雰囲気に不似合いすぎた。
「これ、お前がよくつけてるキャラクター?」
知っててくれたんだ。俺がクマローのキーホルダーとかつけてるの。
「はい。あの、そのクマローの飾りは取っちゃっていいんで……」
そう言いかけたけど、先輩はそのままヘアゴムで髪をくくり始めた。
「……ん。ありがと」
パチンと音を響かせて髪を結んだ先輩の目は優しくて、口元もいつもよりも柔らかに微笑んでいる気がした。
先輩が俺があげたヘアゴムを使ってくれた。ありがとうって笑ってくれた。
喜ばしいはずなのに、なぜか胸が苦しい。
体の奥から込みあげる気持ちを言葉にするならば、俺はたったひとつしか知らない。
どうしよう。俺、先輩を、好きになってしまった。
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