男子高校生、はじめての
〜第15弾 部活の後輩はガチ恋している〜
2022年12月23日発売!
〜第15弾 部活の後輩はガチ恋している〜


「男子高校生、はじめての」
5thシーズン2組目となる第15弾は
ちょっぴり個性派の後輩×先輩カップル♡
ロイヤル系粘着後輩攻め・高江統吾
cv:佐藤元
×
気ままな欲しがり先輩受け・海島漣
cv:伊東健人
LOVEもHも癖強めな『はじめて』をどうぞお楽しみに!!
本日は、ドラマCD本編が始まる前のエピソードを
ショートストーリーにてお届けいたします

奇抜な見た目で生徒会長を務める海島と
生徒会役員として海島を献身的に補佐する統吾。
海島へ何度も告白してはフラれているのに
懲りずに好意を公然のものとしている統吾に対して、
海島の思いは……?
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なし崩しデッドライン
(文:GINGER BERRY)
(文:GINGER BERRY)
夏休みのある朝、歯を磨いていたら唐突に「生徒会長、やってみよ」と閃いた。
完全な思いつきだったけど、やってみたらこれが結構面白い。
もともと企画立てるのは好きだし、うちの高校はノリいいヤツが多いからみんな手伝ってくれる。それにオレには秘密兵器っていうか、特別な手札がある。
それは高江統吾という。
* * * * *
「海島先輩」
「はよ」
朝の混雑した改札を抜けると、柔らかい声がかかった。
高校の最寄り駅、一角を占めていた集団がすっと近づいてくる。
中心にいるのはもちろん統吾だ。待ち合わせしているわけじゃないけど、この半年間、ほぼ毎日、何故か統吾と駅で会う。
いや、何故かもクソもねーな。
統吾がオレのことを待っているだけだ。
最初は偶然と思ったけど、三日も続けばさすがに気になる。でも、どんなに突っ込んでも統吾は「たまたまです」と笑うばかりだった。何回か無視してやったけど文句も言わない。
結局、律儀に繰り返される『偶然』にどうでもよくなったのはオレが先だった。
ひと月もすると統吾は平然と駅の片隅でオレを待ち構えるようになっていたし、最近ではなんか知らんけど女子まで一緒に待っている。それも統吾と同じ1年生だけじゃない。
「みちゅま、はよー」
同じクラスの柴崎と岡が、下級生に交じって手を振ってきた。
「はよ。なにしてんの」
「ロイヤルが健気にみちゅま待ってるから、いろいろ話してた」
ロイヤルってのは、統吾のあだ名だ。
スタイルが良く端正な美形で、常に丁寧な言葉遣いを崩さず、柔らかく穏やかで上品。そんな統吾は『ロイヤルって感じ』なんだそうだ。なるほど?
「あんま信じんなよ、統吾。岡、すげー盛るから」
「海島先輩は、みちゅまって呼ばれてるんですね」
「みちゅま、可愛くない? ロイヤルもみちゅまって呼んでいーよ」
「俺が呼んだら気持ち悪いでしょう? ねえ海島先輩」
「知らねーわ」
どうでもいい話に飽きて歩きだすと、統吾はすかさずついてきた。
高校への道を辿りながら、オレの予定を確認していく。
「今日の部活ですが、遠藤先輩主宰の人狼ゲームが3年の教室で開催予定です。でも放課後は理事長との対談なので、欠席の報告を入れておきました」
統吾はすげー便利だ。ちょっとした問題点をすべてどうにかしてくれる。
備品が足りないとか、スケジュールがバッティングしてたとか、誰かに連絡してないとか、オレがどーにかなるだろと放置しといたことを勝手に全部拾って上手く処理する。しかも文句言わねーし、恩着せがましくもないし、嫌味とか怒ったりとかもねーの。最高か?
ただ、問題がひとつだけある。
コイツはオレが好きなのだ。100%恋愛的な意味で。
『高江統吾は海島漣が好き』――というのは学内中が知っている。
統吾が隠そうとしないから。
同じゲーム同好会の後輩というだけの1年生は、ある日、オレにガチの告白をかましてきた。それ以来、朝から駅でオレを待ち、昼は一緒に飯を食いたがり、帰りもだいたい一緒になる。なにかにつけて2年の教室まで来るし、オレが生徒会長に立候補したらいつの間にか生徒会役員になっていた。
以前、さすがにどうかと思った誰かが統吾を問いただして、統吾の好意は知れ渡ることとなった。
でも、あまりに統吾が隠さないせいで、最近じゃ噂にもならない。オレや統吾と親しい奴らだけが、こーやって生暖かく見守っている。みんな飽きたのか、統吾が裏でなにかしたのか。いや女子達が画策したのかも。知らんけど。
「対談終わってから人狼途中合流できねーかな」
「対談は3時間の予定ですから、ちょっと難しいんじゃないですかね」
「3時間って長くね? そんなに喋ることねーよ」
「理事長からのリクエストなんですよね。話が長くなりがちので、ゆったり時間を取って欲しいと」
「あー……話すの好きだもんな、理事長」
今日は柴崎が部長をつとめる放送部と組んで進めてる企画
理事長VS生徒会長
生徒から集めた質問をテーマを徹底討論!
木乃実学園の深層に迫る!?
の撮影だ。生徒から集めた質問をテーマを徹底討論!
木乃実学園の深層に迫る!?
最近ドキュメンタリー制作に力をいれてる放送部は、独自に取材して制作した動画を月1くらいで公開している。だから生徒会長選挙のとき『独占密着』とかいって、オレの取材をしてもらった。オレと統吾と柴崎で綿密に作戦を練って作った5分くらいの取材動画は、校内でめっちゃウケて、そのバズりでオレが勝ち抜けた感がある。
まあ、そんな縁で今回の企画なわけだ。
質問集めや進行は生徒会、照明撮影編集は放送部、主演はオレと理事長。喋ってるだけじゃ画面が地味じゃね?と思うんだけど、オレら二人なら充分もつと返された。まあ、ダンディにスーツを着こなしてる理事長と、ダルいジャージにピアスのオレが、真面目に話をしている、ってだけで面白いかもしれない。
「ということで、放課後、迎えにいきますね」
「や、自分で行けるし。理事長室だろ、対談すんの」
「そんなの口実です。少しでも長く、先輩に会っていたいだけなので」
悪びれもなくそう言う統吾に、背後の女子が湧いた。
* * * * *
言った通り終業チャイムの3分後にはやってきた統吾と、理事長室へと向かう。
外ノ杜理事長はもうすぐ60歳になるらしいけど、明るくフレンドリーで昭和のひとって感じのレトロイケおじさんだ。活躍してる卒業生のこと、文化祭のこと、校則のこと、レアな話盛りだくさんで収録は進んでいき、話題は制服のことになった。
「海島会長のジャージ登校は理事長公認と伺いましたが」
進行を務める統吾がタブレットを操作しながら寄せられた質問を選んでいく。脱線しがちなオレと理事長をコントロールするのは、さすがの統吾でも難しいようだ。予定の時間がそろそろ来るけど、事前に見せられた進行表の半分程度しか進んでない。ま、面白ければいいとオレなんか思うけど。
「公認てか、受験前の学校説明会の時に質問したんだよね。ジャージでいいですかって」
「そうだったね。懐かしいな、覚えているよ。そんな質問されたことがなかったから、とても印象に残ってる」
――木乃実学園高校のブレザーは標準服だから、望むならジャージでも私服でも自由に着て構わない。オレの問いに、そう理事長は答えた。
『だったら、そもそも制服いらなくないですか』
『僕はね、制服は思い出だと考えているんだよ』
たった三年間しかない高校生活でしか纏えない特別な装い、それが制服だと理事長は言った。だからこそ、大人になって制服を見たら思い出す。良くも悪くも鮮烈だった高校での三年間を。
『君達が過ごす高校時代を包むラッピング、それが制服なんじゃないかな』
「あの説明、すげー響きました」
「でも、海島会長は制服着ないんですね」
「響いてくれたんじゃないのかい?」
「だって、ジャケット面倒じゃん」
「みちゅま、マジそういうとこやぞ!………あっ、すみません、ここカットします」
カメラを構えていた柴崎が慌てて頭をさげる。
「てか、そろそろ終わりでよくね? オチついたし」
質問はまだあるけど、予定の時間は過ぎている。もう少しだけと放送部が粘ると、理事長が「また次回、ということでどうかな」と提案してきた。
「是非お願いしたいです!」
「でも、面白そうなネタ、結構喋っちゃったくね?」
「大丈夫! 一番答えてほしかったテーマ、まだ話してないから」
「いえ、そのテーマは生徒会としては不採用ということで……」
「どんなテーマなんだい?」
「学内恋愛について、です!」
理事長とオレは顔を見合わせる。
恋愛て。それ、オレら、なに話せばいいの?
「……そういえば君、高江くんのことどう思ってるんだい?」
「いや、理事長と恋愛トークとかしねーし」
思わずツッコんだら、理事長は大笑いした。
高江統吾は海島漣が好きだ――というのは、学内中が知っている。
それは理事長ですら例外ではない。
……いいのか、それで。
「……ああ、降ってきちゃいましたね」
対談が終わったらもう7時を過ぎていた。
車で送ってくれるという理事長の誘いを、本気で理事長の恋愛事情が知りたいらしい柴崎に譲って、統吾とふたりで駅へと向かう。校舎を出ようとしたら、ぽつりとコンクリートに雨粒が落ちた。最初はわずかな数滴が、みるみる細い筋となって正門までの道をけぶらせていく。
「どうぞ」
「ん」
統吾が大きなこうもり傘を差しかけてくれる。
遠慮なく入るけど、これにすっかり慣れちゃったオレもどーなんかな。
「……なあオレらBL営業って言われてんの知ってる?」
「え。俺は本気ですから営業じゃないですよ」
ブレない返事に笑ってしまう。
出会って以来、統吾は何度も告白してきた。そのたびにオレはつきあわないと断る。ガチのだけでも、もう5回はフった。
そんなんされても好きとか言ってこれるとか、これはもう持ちネタにしてんだろってことで、最近じゃダチはみんな「ロイヤルのフラれ芸」だと思ってる。ゲイだけに。って上手くもなんともねーわ。
でも、たぶん。いや絶対。統吾は本気でオレが好きだ。ネタじゃなく。
オレはエンタメにされるのは嫌いじゃないけど、コイツは本当にそれでいいのか? 作り物めいた綺麗な顔からは感情が読み取れない。だが、オレの視線に気づくと、僅かに表情が曇り、不安そうに眼差しが揺れる。
「……海島先輩は不愉快ですか?」
「や、別に」
「そうですか」
むしろこの何事にも優雅で完璧な統吾がオレのことになると綻びを見せるのは、ちょっと気持ちいい。軽く返すとほっとしたように統吾は笑った。切迫感すら覚えるひたむきさをオレが息苦しく感じると、必ず気づいて退いてくれる。微妙に臆病な好意は押しつけがましいけどオレを脅かさない。
コイツの隣は快適すぎる。行き届いた心地よさにぐずぐずと柔く甘やかされて、離れがたくなってしまう。
『君、高江くんのことどう思ってるんだい?』
さっきから差し掛けられている傘はオレを雨から守るけれど、統吾の肩は濡れている。無条件で優先され大切されてる。言葉も表情も行動も全部使って、オレが好きだと伝えてくる。
オレだって、統吾のことは嫌いじゃない。
こんなに好き好き言われたら、つきあってやるくらいはいーかなと思ったりもする。たぶんキスくらいはできるだろうし。
……できるかな?
「そういえば人狼ですけど、今度アプリで遊びたいと誘っておきました」
「サンキュー。でも先輩、受験勉強いいんかな」
「息抜きしたくてたまらないみたいですよ。すぐに『セッティングしろ』って返ってきましたから」
「よーし、じゃあ、ボコボコにしてやろ」
「そこは気持ちよく勉強に専念できるように勝たせてあげればいいのに」
おかしそうに統吾が肩を揺らす。サラサラの黒髪が揺れて、少しだけ幼く見える。形のよい唇はちゃんと手入れされて、ふんわりと紅い。柔らかそうだし、気持ちよさそう。
オレのことが大好きな、かわいい後輩。
きっとキスしてやったら少し驚いたような顔して、それから嬉しそうに笑うだろう。それは悪くないように思った。
やー、でもなあ……。セックス。問題はセックスだ。性行為。抱けなかったら……勃たなかったら、いくら統吾でも傷つくだろーし……。
……あー…………、……。
いつも大体こんな感じで思考は止まる。これ以上考えないほうがいいと警告が鳴って頭が回転しなくなる。
このままでいい。このままがいい。
こうやって生ぬるい関係のままずっと統吾と。
晩秋の日没は早く、街灯の明かりが滲む。しとしと降る雨のせいで少し静かな通学路。区切られた狭い傘の裡、時折互いの腕が触れあう。そのたび、端正な横顔が柔く崩れる。終わりかけた金木犀が通りがかりにひんやりと淡く香って、切ないような懐かしいような、どこかむず痒い感情を誘う。
「もうすぐ冬ですね」と統吾は目を細め、それから「寒くないですか?」とびしょ濡れの肩のまま、心配そうにオレを見た。
……なんだろーね、これ。
「お前ちょっと濡れちゃってんじゃん」
と、くっついてみたら、統吾は小さく息を飲んだ。
END
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