「男子高校生、はじめての」
〜第4弾 親友の交際を全力で阻止する方法〜
たくさんのご予約ありがとうございます!
〜第4弾 親友の交際を全力で阻止する方法〜
たくさんのご予約ありがとうございます!
今日はドラマCD本編が始まる少し前、始業式を迎えた有(ある)視点のお話を公開いたします!
発売前に少しでも彼らのことを知ってもらえたら嬉しいです。
1stシーズン在学中のメンバーもちょっとだけ登場します。同じ学校に通う有から見た、彼らの変化にもご注目ください♪
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セイシュンハッカ
(文:GINGER BERRY)
(文:GINGER BERRY)
空は快晴。桜の花が舞い落ちる道。
変わったことは、おろしたてのネクタイだけ。それでもたった数日前とは違う自分になれた気がする。
オレは、今日から高校2年生になる。
人だかりの向こうにある掲示板を、前の奴らの頭を避けながら確認する。貼りだされたクラス分けを見て、喜びの雄たけびをあげる奴もいれば、落胆の溜息をつく奴もいる。
「佐々木、五月女、佐藤、清水…、あった」
杉本有。
「2のDか。他に誰がいんのかなー」
無意識に自分より少し上にあるかもしれないと探してしまう名前は、もちろんない。
オレは普通科。あいつは特進科。たぶんAかBかCのどれかだ。
「あ、志馬。オレ達同じクラス! E組だって!」
聞き覚えのある、明るい声がすぐ後ろで聞こえてくる。
振り向くと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら掲示板を指さす山吹裕太がいた。相変わらず動きが小動物っぽい。
「裕太、おはよー。オレ、D組。クラス離れちゃったな」
声をかけると、裕太が満面の笑みで答える。
「えっ! 有、D組だったら一樹と一緒じゃん! よかったな!」
裕太が精一杯顔を見あげて、隣に立つ青海に声をかける。
青海一樹。裕太の幼なじみだ。同じバスケ部で、住んでるマンションも同じだとかで、しょっちゅう一緒にいる。
「…………」
対して青海の表情は、こっちが心配になるくらい暗い。普段無表情だけど、それでもわかるって相当だ。幼なじみとクラスが離れるってそんなにショックか?
「よろしく」
「………おう」
聞こえるか、聞こえないかの低い声。よろしくする気なんてないんだろうな。まあ、青海は無口だけど運動がとにかくできるから、運動部の奴らから好かれてるし、同じグループになることはないだろう。
「オレと志馬がEで、有と一樹がDってことは、合同体育も別々か〜」
志馬って、誰だっけ? と思ったら、裕太の隣で頷く存在に気が付いた。ああ……川井のことか。ろくに話したこともなかったけど、裕太と仲がいいから覚えてる。
それにしても、川井ってこんなに背、高かったっけ? 180pくらいあるんじゃね?
「青海と俺、クラス逆だったらよかったのにな」
川井が意気消沈した青海を慰めているけれど、増々眉間の皺が深く刻まれただけだった。
「それより裕太ってば、1年んとき、あんだけ誘ったのに合コン一回もこねーんだもん」
裕太は小柄だけど、明るいし、顔も可愛い系だし、合コン連れてったら結構モテるんじゃね?って思ってたのに。
「あー…、オレ達、毎日部活あるから」
「もったいねー。せっかく高校生なのに部活部活って色気がないな〜」
「部活しながらだって恋愛できる」
青海に突然断言されてちょっとビビる。青海って無駄にスタイルいいから不愛想ないくせにすげえモテるけど、告っても全部断ってるっていうから、そういうの興味ないのかと思ってた。
女子マネとかと付き合ってんのかな?
「……うん。できる」
さらに川井にまで同意されて、文化部のオレとしては肩身が狭い。
ハードな練習をこなして、恋までしちゃってって。なんだろう、この溢れ出る青春感。
「合コンは無理だけど、部活が休みの日とか遊びに行こうよ。有に服選んでもらうっていって結局いけてないし」
「あー、うん。そだな」
ついつい話し込んでしまったオレたちは、予鈴に急かされて慌てて教室に向かう。
いつもより階段をひとつ多く昇った先の教室は、当たり前だけど1年のときと同じような机が並んでいるだけだった。
そこそこ顔が広いオレは、新しいクラスでも劇的な出会いがあるわけでもなく。女の子のSNSの連絡先が何件かスマホに追加されただけだった。
朝、少し感じたウキウキ感は、お昼頃にはすっかり薄れてしまっていた。
「アルー。今日の午後、みんなで遊びに行かない? バイト入ってる?」
1年のころに何度か遊んだことある奴と、その友達とって感じで、自然にオレを含めて男女6人のグループが出来上がっていた。もちろんその中には青海はいない。
結局、運動部の奴らとは生活サイクルが違いすぎるんだよな。
「今日はバイト休みー。せっかく半日で終わんのに、普通シフトいれないし」
先輩に紹介されたカフェバイトは、あんま忙しくないし、雰囲気いいし、ゆるーい感じで気に入ってる。ちょっと遊ぶお金が欲しいだけだから、ちょうどいい。
「あ、でも部室に忘れ物しちゃったから、先、行ってて」
「部室って、アル、部活入ってたっけ?」
「去年の秋からかな? 映研入った」
「えー? 意外! 映研って特進科の子ばっかじゃん?」
「…まーね。連絡入れるからさ。どっかお店入ってて」
なんとなくこれ以上突っ込まれたくなくて、ささっと退散する。
映画研究部。去年の秋、なにかに急かさせるように扉の前に立った。
あのとき、オレは何を期待していたのだろう。
結局ここで、予想外の重いものを背負ってしまっただけな気がする。
「おつかれ……ぶっ!」
扉を開けた途端、目の前がふさがれる。鼻先を打って、変な声を出してしまった。
「大丈夫か?」
バリトンのいい声が降ってくる。ふさがれた壁は、生徒会長をしてる、3年の参納先輩だった。生徒会長だ。硬そうな胸板を見て、こんなのに突進したら痛いはずだと鼻先をこする。
「…すいません」
ちょうど先輩が部室から出ようとしたところに、俺が突然扉を開けて入ろうとしたせいでぶつかった、ということか。出る人優先、と一歩離れる。
「いや、こちらこそ」
……先輩に謝られてしまった。
参納先輩は同じ中学だったけど、昔より雰囲気が柔らかくなった気がした。それに生徒会長なんてやるタイプだと思ってなかったから、先輩が会長に立候補したときは驚いた。
去年までの先輩は、勉強もスポーツもできるけど、なんかクールというか『優等生』なひとじゃなかった。建築家のお父さんの会社が六本木にあるから、夜遅くに年上の女の人と一緒に歩いてるのを見たとか、ちょっと遊んでるひとみたいな噂があった。だから高校生らしくない、というか大人っぽい印象が強い。まさか生徒会なんて青春っぽいことするひとだったなんて。
「映画研究部の新しい作品、楽しみにしてる」
「は……、はい」
びっくりした。とっさに頷いちゃったけど、オレは作品なんてなんにも作ってない。
でも参納先輩が映研の、あいつの作品を見てるって知って、なんだか誇らしく思えた。
背の高い後ろ姿を見送りながら、かすかな喜びを噛みしめる。
「今日、部活ないけど」
部室の中から聞こえてくる声にどきっとする。春休み中は部活がなかったから、すごく久しぶりだ。
小さく小さく咳払いして、部室に入る。いつも通り、みんなにするのと同じ態度を心がけて。
「ひさしぶりー」
「……そうだな」
机の上の紙をまとめながら、椎堂は顔もあげずにオレに応える。
椎堂真史。オレと同じ2年。特進科だから去年も今年もクラスは違う。映画研究部随一の映画バカ。
「元カノから借りてた漫画、部室に忘れてさー」
ロッカーから目当ての漫画を見つけて、バッグの中に放り込む。去年のクリスマスから付き合ってた他校の女子と春休み中に別れた。サバサバしてて、気もあって、いい子だった。結構楽しかったけど、飽きるのも同じタイミングなんて、気があう証拠かもしれない。合コンの約束をして、円満にお別れした。
「ふーん……」
明らかにひとの話なんて聞いてない返事。
「お前って、ホント会話広げる気ゼロだよな」
この間まで彼女がいたこと知ってんのに、『彼女と別れたんだ?』くらいの世間話くらい振ってこいよ。
椎堂はオレになんて、これっぽっちも関心がないのだ。いや、映画以外に向ける意識が皆無。だから彼女いない歴=年齢だし、それをまったく恥ずかしくも思っていない、堂々たる童貞だ。
「さっき、参納先輩に作品楽しみしてるとか言われた」
「うん。聞こえてた」
「そういうのはちゃんと聞いてるんだ」
参納先輩がいう映研の作品は、椎堂が作る映画のことだ。うちの部はここ数年ずっと批評活動を中心にしてるけど、椎堂は個人的に作品を撮り続けているらしい。
去年の秋、椎堂が撮った映画が賞を取ったとかで、全校集会で紹介された。そこでオレは初めて、知ったんだ。
椎堂が撮る世界を。
「参納会長に学校紹介のムービーを今年度も作ってくれって頼まれた」
椎堂がプロジェクターに映像を映し出す。
去年、椎堂が撮った2分くらいの短い学校紹介ムービーだ。何度も見たのに、思わず見入ってしまう。
夕日に照らされた渡り廊下。吹奏楽部の演奏が風に乗って届く。
ボールを打つ音が響く体育館。外の水飲み場で汗を流す運動部員たち。
学校紹介って、パンフレットによく載ってるみたいな、緑の下できっちり制服を着た男女が笑ってる爽やかな絵が王道なのかなって思うけど、椎堂は放課後の学校を描いた。
部活にも力を入れてる、うちの学校らしさがよく出てる。なんでもない日常だけど、この一瞬はここでしか体験できない。そう思わせるものがあった。
「夏の説明会用に、今度はもう少し長めのものが欲しいって」
いつの間にか再生が終わったスクリーンを見続けていたことに気づく。
もう少し長めの学校紹介ムービー…。椎堂の作品が期待されるのはいいけど、少し不満だ。
「ご指名なんてすごいじゃん。でも。お前、自分の作品撮んねーの?」
学校紹介よりもオレは椎堂の作品が見たいのに。
「俺は個人的に撮り続けてる。まだ大きなタイトルになるものはないけど」
「ふーん…」
よくわからないけど、椎堂の中では人に見せるほどのものではないらしい。だから、去年の秋に賞を取った作品以外、オレは椎堂の新作を見れていないのだ。それに部活動は鑑賞とか批評ばっかで、実際に撮ってる姿さえ知らない。
「去年の実績が認められて、今年度は予算を増やしてくれるそうだ」
「……?」
予算が増えたら、どうなるんだろうと首を傾げる。
「映画とか撮るなら、活動費が必要になるだろ」
「……うちの部で映画が撮れんの!?」
心の中が、ぶわっと広がった気がした。
今朝の桜並木で、風に吹かれた花びらが自分にむかって舞い降ってきた。そんな感じ。
「部内で話し合って、みんながやりたいってなったらな」
「えー、そんなん速攻でOKじゃない? オレ、手伝えることなんてなんでもする。雑用とか買い出しとか」
「だからまだ決まってない」
椎堂のツッコミは相変わらず容赦ないけど、口元が緩んでる。お前だって嬉しいんだろ? ずっと見てたからわかるんだ。
じりじりと胸の奥が焦げていく。あのとき発火した火種は消えてなんてない。
何かが変わる。変えられる。
新しい季節が始まるんだ。
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