2020年04月03日

中島ヨシキさん&堀江瞬さんアフレコインタビュー

男子高校生、はじめての 
〜第13弾 真夜中は落ちこぼれ〜

ぴかぴか(新しい)発売まであと1週間ぴかぴか(新しい)


第13弾のカップルは
物騒な溺愛彼氏攻め・什三と
キャパ極小の陰キャ受け・タマの
はみだし者同士の辺境カップル夜

テンパりがちでコミュ障な陰キャ・タマは
高校に入学して生まれてはじめて友達ができた。
タマのたったひとりの友達・什三は、
いつも笑顔で、優しくて、けれどどこか物騒で、
なぜかタマをとても気に入り、猫可愛がりしてくる。
春休みのある日、突然学校に泊まると言い出して……。
予想外に転がる恋の行方はー(長音記号2)exclamation&question

はじめての×××シーンも少しだけお聴きいただける
WEB CMを公開中です!




本日は、
什三役の中島ヨシキさん&タマ役の堀江瞬さん
キャストインタビューをお届けいたします!

仲良しな中島さん&堀江さんのおふたりですが
BLドラマCDでのメインカップル役としては初共演とのことひらめき

アニメイト限定盤のフリートークでは
作品についてはもちろん、
BLドラマCD収録現場での思い出やテクニックについてなど
内容たっぷりに語っていただきましたぴかぴか(新しい)
どうぞお楽しみにるんるん

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――収録のご感想をお願いいたします。

中島:什三を演じました中島ヨシキです。ドラマCDオリジナル作品ということで、原作があるものよりも僕らに色々なものを委ねていただいて、出来あがっていくものだと思います。ですので、より生々しくリアルな『ひと』を感じていただけたらなと、敢えてオーバーなアクションはしないように演らせていただきました。
アフターストーリーで少し描かれますが、キャラクターに複雑なものがあるので、彼らがどんな人間なのかをもっと知りたくなるような収録でした。楽しかったです。

堀江:タマ役の堀江瞬です。まさか付き合いの長い中島ヨシキさんと、このように共演を果たすことになるとは夢にも思っておらず、今日は緊張して収録に臨みました。でも、本当に他の役者の方もおらずただ二人っきりで密室で録るっていう体験が、こう……艶やかな時間を過ごすのを大いに手伝ったというか、より二人だけの空間感みたいなものがあって、僕はすごくやりやすかったです。
それに、ほとんどが二人の会話劇だったので、お芝居の面でも面白く掛け合いをしていて楽しかったです。あとはもう本当に本当に僕はBLの現場の経験が全然足りないので、経験豊富なヨシキくんにすべてを委ねるつもりでやらせていただきました。

中島:そんな俺が遊び人みたいな言い方しなくてもいいじゃないですか。

堀江:いや、別にそこまでは言ってない(笑)

――什三の印象や、演じる上で気をつけた部分はありますか?

中島:二人きりですし、什三的には好意をまったく隠してないつもりでいたので、どうしても甘く優しくなってしまう部分はあるんですが、でもそれだけじゃないようにと。
人としてちょっと恐れられる部分があるとか、持ってる雰囲気が多分荒々しいとか、別に嫌いじゃないし学校の教室にいたら普通に話すんだけど、街で会ったら声かけづらい、みたいな。こういう、嫌われるわけじゃないけど、寄せ付けるわけでもない、みたいなバランス感みたいなのがある人って確かにいるなーと思って。そういうちょっと一歩踏み込んだ怖さみたいなのと、タマと一緒にいるからこそ出せる雰囲気みたいなのの、落差がパキッと出たらいいな、と思ってやらせてもらいました。

――タマを演じていただいた堀江さんは、いかがでしょうか。

堀江:タマの性格的に自分と割と近しいというか通じる部分が結構あったので、作り込むことなくすっとナチュラルに、タマくんを演じることができたかなと思ってます。
でも、最初に台本を読んでいた時は、什三くんにここまでめちゃくちゃ愛されてるのに、なんでまだそれでもキョドるんだろう、愛を享受することに対して恐怖というか「いいんですか?」って懐疑的な気持ちが入るんだろうって、疑問でした。
けれど、確かに僕も思い返してみると、そうだったなと。義務教育時代、クラスのいわゆる一軍と呼ばれている方々からたまに話しかけていただいたりすることがあって、それはもう、もちろん100%善意だったんですけど、普段本当にそういう善意に触れることがないから、「絶対にこれドッキリだよな」とか「この善意には裏がある」とか、確か色々に考えてたなあって。今でこそこの業界に入らせていただいて、友達もできて、暖かな人間関係を少しずつ築いてはいけてますが、その時はこういう無償の愛を受けることに対して、抵抗というか、自分なんかがっていう気持ちが確かにあったって思い出してきて……。

中島:重てーな(笑)

堀江:重たい!? やっぱ重たいよね!?!?

中島:言わんとしてることはわかるけど。

堀江:だよね?だよね? だから「ああ、そうそう。こういう感じだった」ってちょっと過去の自分を思い出して、よりリアルな、ほんとにクラスの目立たない個として演れたんじゃないかなって思います。

――そんな堀江さんから見て、什三の印象や、中島さんが演じられた什三のご感想を教えて下さい。

堀江:実際ほんとにプレイ中に、Sというか、結構暴力的な口調になられると、僕だったらちょっと本能的な恐怖を抱きそうになると思うんですけど、タマくん的には、たぶんそれ位がちょうどよかったんじゃないかな。この逃げる隙も与えない感じが。
タマくんもとい我々のような人間って、逃げる隙を与えられると逃げちゃうんです。だから、こういう什三くんの態度って、すごく有り難いというか。タマもアタフタしてるけどきっと心のどこかでは、こういうふうに来てくれるのは有り難いって思ってるんじゃないかな。意識してるかしてないかはともかくとして。
でも、ただ100%暴力的なんじゃなくて、そこにタマを尊重してくれる気持ちというのが含まれてて、その塩梅がやっぱり中島ヨシキさんだな…!と。本当に、本当にやりやすかったです!

――中島さんから見て、堀江さん演じるタマはいかがでしたか?

中島:タマみたいな役をプロの方が演じるときってめちゃめちゃわざとらしくなっちゃうと思うんですよね。ちょっと言い淀んだりとか、言葉がツラツラ出てこないっていうのが、お芝居がかって聞こえちゃいがちというか。
でも、タマはあまりにもリアルで、それは瞬がタマと近しいところがあるっていう部分を抜きにしても、単純に演者としてのスキルがすごいなと僕は隣に立っててめちゃめちゃ思いました。あーもうタマに関しては堀江瞬以外できないんじゃないかと思わせるような説得力がありましたね。

堀江:相思相愛ですね。

中島:(爆笑)でも本当に、自分にはできない引き出し使ってるので、すごい尊敬します。

――タイトルにちなんで『真夜中』なのについやってしまうことはありますか?

堀江:もっぱら最近は間食。やめなきゃやめなきゃと思うんですけど、昨日も夜中お腹空いて目が覚めて。

中島:マジ? それすごいよ

堀江:1時半とか2時くらい、ほんと真夜中に、あらかじめ買ってたケーキ2つ食べちゃった。タルトの。

中島:でも、そのケーキは夜食用じゃん?

堀江:いや、朝に食べようと思ってたの!

中島:朝は重てーだろ!

堀江:ケーキに限らず、甘い物を食べるとしょっぱい物も食べたくなるので、カップラーメン食べたりとか。僕、ここ最近ダイエットをめちゃくちゃ頑張ってたんですけど、でも一回「まあいいか」と思って食べ始めてしまうと止まらなくなってしまって、間食やめられない人間になっちゃったんですよ。真夜中の。だから、間食せずに徘徊とかにしようかなって……。

中島:それもやめてください。

堀江:え。え。駄目?

中島:うちのほうまで徘徊して来られると困る。近所だから。

堀江:いや、起きてるかなって……。

中島:怖すぎる!

堀江:ピンポンしたりして。

中島:そしたら開けるけど。

堀江:え、ほんと!?

中島:で、ご飯食わすから。

堀江:じゃあ行くわ。

中島:結果、飯食うっていう。

堀江:(笑)

中島:僕も昨日仕事終わるのが遅くて、夜中に帰ってきたんですけど、食べない方がいいなー、食べない方がいいんだよなーって………食べた。

堀江:わかりみが深い。

中島:駄目って言いながらも食べちゃうみたいな。

堀江:挙げ句の果てにそんなお腹空いてなくても食べちゃう。なんか口に入れてたほうがいいんじゃないかと思ってさ。

中島:それはヤバい。

堀江:ホントに? そゆことない?

中島:せめてガムとかさ、アタリメとかにしといた方がいいよ。

堀江:マジかー……。

中島:でもなんか忙しくさせてもらう時期とかは、もうご飯にしか発散先がないことがあったりするので。あんまり自制してもなと思う時はもう思い切り食べようと、最近は開き直るようにしてますかね。

堀江:そうなんだ。

中島:やっぱりこう、お昼に食べるカップラーメンより、その12時間後に食べるカップラーメンのほうが750倍くらいおいしいから。あれは一体なんなんだろうな……。

堀江:背徳感がスパイスになってるから。

中島:あ、いま、俺食べちゃってるなー…を含めての味だから。

堀江:わかるわかる。

中島:つか、いま皆さんも、わかるーって言いながら、見て下さってると思うんですけど。こんなにお客さんに共感を得られる話題もないよね。

――最後に楽しみにお待ちいただいているファンの皆様にメッセージをお願いします。

堀江:まさかまさか、ヨシキくんからLINEで連絡されるまで、ふたりで肌を重ねることになるとは思っておらず……。

中島:(爆笑)

堀江:あ? え? あってる?

中島:間違っちゃいねーけど(笑)

堀江:その時に僕が感じた衝撃を、きっと本編を聴いたみなさんにも同じように感じていただけるんじゃないかと思います。
二人っきりで丁寧に録った作品ですので、是非最後まで、いろんなところを聞き残すことなく、たっぷりと堪能してくだされば嬉しく思います。よろしくお願い致します。

中島:第13弾ということで、長いこと続いてきたシリーズに参加させていただけたのが、男性声優としてすごく有り難い、嬉しいなと。同じように、このシリーズを聴いてくださる方にも、よかったなと楽しんでいただけたら嬉しいです。
あとBLってどうしても濡れ場とかが注目されがちだと思うんですけど、キャラクター達がどうやって生きてきたか、台詞の裏側にある彼らの人間性とか人間関係とかに耳を傾けていただけると、もっともっとCD一枚が楽しく聴けるんじゃないかなと思います。丁寧に二人で演らせていただきましたんで、細かい感情とかまで届いていたらいいなって思います。どうぞよろしくお願いします。

――ありがとうございました!

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(左から、中島ヨシキさん、堀江瞬さん)




posted by GINGER BERRY at 19:00| 第13弾真夜中は落ちこぼれ

2020年02月22日

第13弾ショートストーリー掲載

男子高校生、はじめての 
〜第13弾 真夜中は落ちこぼれ〜

ぴかぴか(新しい)4月10日発売予定!ぴかぴか(新しい)


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4thシーズン大好評発売中!!!
第11弾〜あまえたがりキングと世話焼きジャック〜
第12弾〜BADBOYは諦めない〜にたくさんのご声援、ありがとうございます!
シーズン最後を飾るのは第13弾〜真夜中は落ちこぼれ〜

本日は、ドラマCD本編が始まるおよそ2ヶ月前、
お昼ご飯を食べるふたりの様子をタマ視点でお送りします。
什三くんとタマの、ちょっと独特な関係性をお楽しみください黒ハート

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ものを食うとか愛だとか
(文:GINGER BERRY)




 午前の授業が終わり教師が去るとともに、クラスメイトたちが動きだす。
 毎日、毎日。この時間が一番緊張する。
 今日こそ終わりかもしれない。気まぐれは、理由なんかきっとない。はじまりに理由がなかったように、終わりにだってあるはずない。
 でも昨日は平気だった。今日だって大丈夫かも。大丈夫だといいな。

「タマー、飯食いに行こうぜ」
 ――来た! 今日も大丈夫だった!!!!
「う、うん!」

 勢いよく立ち上がり過ぎたせいで、けたたましい音を立てて椅子が転がる。恥ずかしい。だけど、それをまったく気にせずに「今日は玉子焼きな」と什三くんは笑った。


*   *   *   *   *



 どうも、山本地球です。地球と書いて、タマと呼ぶ。変な名前。
 以前、なんでこの名前にしたのか親に聞いたら、マタニティハイだったのかもと言われた。別にすごい由来を期待してた訳じゃないけど、マタニティハイ。そう、うん。別にいいけど。
 ちなみに妹の名前は亜由美。普通だ。もうハイじゃなかったらしい。俺の時ももう少し落ち着いて欲しかったと思わなくは、ない。今さらだけど。

「いい名前じゃねえか、タマ。ほれ。あーん」
「そうかな……」

 昼休みの定番はあまり人が来ない校舎裏だ。日陰だから、冬になるととても寒い不人気スポット。コートを着たまま、いつものように校舎の壁にもたれるように座り込んで、什三くんが箸を差し出してくる。
 口を開けると、綺麗な箸遣いで運ばれた玉子焼きがほのかに香る。

「……あまい。おいしい。好き、かも?」
「おう、これ三温糖使ってんからな。コクがあるだろ。次こっちな。あーん」

 さんおんとう、とは、なんだろう。あとで調べよう。
 差し出されるままに、玉子焼きを食べる。しょっぱい出汁巻き。ほうれん草と鶏肉。明太子。じゃがいもやハムが入ってるケチャップ味。次々と口の中に放り込まれる玉子焼きは、どれも違って、みんなおいしい。
 これを全部作ってる什三くんは本当にすごい。

「…………なあ、煉谷。それ、いつもやってんの?」
「おう」
「中学ん時とキャラ違くね?」
「うるせえわ」

 モグモグと咀嚼していると、何故か水都くんがため息をついた。
 ちなみに水都くんは隣のクラスのひとだ。什三くんに用があるって探しにきたのに、俺たちの様子を見たら固まってしまった。地蔵のような水都くんを前に、俺は首を回して、すっかり定位置になっている自分の状態を確認する。

 什三くんの太腿の上に跨がるように、俺は座っている。これは、この体勢が一番食べさせやすいと指定されたからだ。
 什三くんと同じく、俺もコートを着ている。2月の日陰は本当に本当に寒いのだ。……そこがおかしいのかもしれない。こんな格好をしてまで、外で昼ご飯を食べなくてもと水都くんは思ってるのかも。そういえば、なんでこんなところで食べてるんだろう? 今度什三くんに聞いてみよう。
 什三くんの手には大きな弁当箱。今日は各種玉子焼きが入っていたけど、もうふたりで食べてしまって殆どない。でも、まだ綺麗に詰められたご飯と他のオカズが残っている。
 その中の小さなハンバーグをひょいと摘み上げ、什三くんはまた俺に口を開けるように促した。小さいけれどちゃんと本物のハンバーグの味がする。おいしい。

「豚6、牛4」
「なに、それ?」
「肉の割合。弁当だと冷てえから牛多いほうが旨いけどな、お前、柔らかいほうが好きだからよ」
「そうなの?」
「そう。覚えとけ」

 なるほど。俺は柔らかいほうが好きなんだ、そうかもしれない。
 ていうか、ハンバーグってビーフ100%じゃないんだ? マクドナルドにそう書いてあったけど、確実にアレよりおいしい。牛肉を使っているからといっておいしいわけじゃないのか。難しい。

「だから、マジでなにやってんだよ」
「飯食ってんだけだわ」
「いや、お前に聞いてんじゃなくてさ。………あの、山本? 嫌なら言っていいからな。煉谷、こう見えて話せばわかるし」
「え、あ、嫌じゃ、ないです」
「なんで敬語だよ」

 それは水都くんが1年生ながら、あのサッカー部の大エースかつ生徒会長の壱哉先輩の右腕として生徒会副会長をやっている、カースト上位の強キャラだからです、と心の中で答える。
 いや、でも、これを言ったら壱哉先輩にくっついてるからすごいみたいに聞こえて、よくないんじゃないだろうか。だけど、返事しないほうがより失礼かもしれない。どう言えばいいんだろう。

「尊敬……、してる、から?」
「えっ、尊敬ってなんで?」

 あ、違った、みたい。水都くんが変な顔をしている。この言葉は間違ったっぽい、不愉快にさせてしまったかもしれない、ヤバイ、どうしよう。
 ざわっと背中に汗が滲む。

「褒められてんだよ、水都。副会長なんかやっててすげえってさ」
「そういうこと!?」
「……、です」

 コクコクと頷くと、「ごめん、全然わかんなかった」と水都くんは笑ってくれた。優しい。いい人だ。
 俺の言葉は不足していて、水都くんに真意が伝わらないのは当然だ。水都くんの反応が正しい。いつもこれで俺は失敗して、折角の好意を台無しにしてしまう。無能すぎる。
 でも、什三くんは何故かわかってくれる。洞察力が鋭いんだろうな。彼は他人の言葉の真意を正しく見抜いて、こうやって何気なく手助けをする。あんまり何気なさすぎて助けられた人すら気づかないくらいに。
 いや、気づかせないようにしてるのかもしれない。何となく、そう思う。本当のことはわからないけど、たぶん。

「あと、タマ、マジで嫌がってねえから。こいつ、嫌なことは割とわかりやすいんだわ」
「うん。嫌じゃない、です。これは、その、修行っていうか」
「なんの修行?」
「あー? 手料理で胃袋から掴むやつのだわ」

 マジ?と水都くんは爆笑した。まあ、俺も思う。什三くんなら、胃袋をなんか掴まなくても余裕で女子が寄ってくる。だから、これは冗談だ。
 だって、本当は什三くんじゃなくて、俺の修行だし。

 什三くんちは小料理屋さんだ。お父さんが料理して、お母さんがお店を切り盛りしている。ちなみにお母さんはものすごーーーーーーく美人だ。あと、おっぱいも大きい。それはまあ関係ないんだけど、とにかく、家業の影響なのか什三くんは食事に拘りがある。だから、毎日毎日購買のかにパンばっかり食べている俺が気になって仕方なかったらしい。

『それ、好物なんか?』
『そう、じゃない、けど……』

 かにパンは安くて一個でそこそお腹にたまるし、いつも最後まで残ってるから買えるし、別に好きとか嫌いとかないから……とボソボソ説明する俺の口に、什三くんが唐揚げを突っ込んできたのが一学期の終わり頃。

『これから毎日作ってくんから、旨いとかマズいとか好きとか嫌いとかなんか言え』

 その言葉通り、それ以来、三学期の今日までずっと毎日お弁当を作ってきてくれる。その代わり、俺はそれがどうなのか、毎日考えることになった。
 最初はよくわからなかった。
 ご飯は食べないといけないものだし、残すのはよくないこと。だから、そこにはなんにもなかったし、なんにもないから、それで完結だ。
 でも、そうじゃないと什三くんは言う。
 甘い、しょっぱい、苦い、からい。おいしい、そうでもない、好き、苦手。
 「味わえ」と彼は言う。

『頭を使え。自分がナニを食べてるかわかれ。それをどう思ってるか、ちゃんと自覚しろ。んで、それをオレに言え』

 よくわからない、と俯く俺に、什三くんは根気強く丁寧に色んなことを教えてくれた。味わって食事をする、ということのすべてを一から全部。
 そして、ある時、やっと気がついた。

『かにパン、ぼそぼそしてて喉につまるし、あんまり好きじゃなかった』

 そう言うと、だろ?と笑って什三くんは何故か俺の頭を撫でた。なんだか、腹の底がむず痒くなる。

『なんでわかったの』
『そりゃダチが毎日クソみてえな顔して、もそもそ食ってりゃわかるわ』

 ダチ。今、この人、ダチって言った?
 あまりにもビックリしすぎて、思わず「ダチって友達? 俺って、什三くんの友達なの?」と身の程も知らず聞いてしまった。そうしたら什三くんは嫌な顔ひとつせずに、そうだと頷いた。
 友達。これが友達なのか。友達ってすごい。現実の友達というものが、こんなにすごいものだってことを、今まで俺は知らなかった。だって、友達なんかいたことないから。

『友達ならわかるものなの? 什三くんだからわかるんじゃなくて?』
『オレがタマのダチだから、わかんだよ』

 その声の響きに、たぶん、これは普通ではないのだろうと思った。たまに、什三くんはこういう、何かを強く俺を揺さぶるような声を出す。いつも笑っているみたいな切れ長の目が、強くぴかりと光って俺を見る。
 ならば、俺は。俺も什三くんのことをわかりたい。どんなものが好きで、嫌いで、楽しくて、嬉しくて、苦手で、悲しいのか、わかりたい。どうして、俺なんかを友達と言ってくれるのかわかりたい。この声が心のどこから来るのか知りたい。
 だから俺はあることを始めた。俺が唯一持っている、現実と自分の折り合いをつける手段。それは什三くんが教えてくれた食べ物を味わうことに似ている。もしかしたら、彼はそうやって、俺が世界を味わっていると気づいたから、食べ物にも応用できるのだと教えてくれたのかもしれない。そんなこと、あり得ないと思うけど。わからない。什三くんだからな。

「おいタマ。噛むな」
「え、お」

 突然、ぐいっと手を強く引かれて瞬く。しまった、また無意識に爪を噛んでいたみたいだ。慌てて、噛んでギザギザになった爪先を握り込んで隠す。みっともない悪癖は治そうとしてもなかなか治らない。何度も何度も何度も、こうやって什三くんはやめさせようとしてくれるのに。
 俯く俺に「これでも食ってろ」と、もう一個ハンバーグが突っ込まれる。こんなふうに什三くんの作ってくれたものを食べたくない。これは、そういうものじゃないから。
 ――せめてもと、よく噛んでちゃんと味わう。柔らかい肉の味、それから香辛料、ウスターソースとケチャップ。いい塩梅。塩梅、という言葉も什三くんから知った。少し甘くて、おいしい。とても、おいしい。

「つうことで、行かねえから」
「わかった。同窓会は欠席な。つか、自分で伝えろよ」
「ささやんに伝えとけつっといたんだけどな。しめとくか」
「やめろって。煉谷が言うとシャレになんねーんだよ。いいよ、俺から幹事に伝えるから」
「そうやって人が良いからつけ込まれんだぞ、おまえ」
「俺の中学時代最大の加害者が言うか、それ」
「相川ほどじゃねえだろ」
「……壱哉先輩は別っつーか、しょうがねえんだよもう」

 什三くんの言葉に水都くんは拗ねたような顔をして背を向けた。しかし何故か振り返り、いいことを思いついたという顔を俺に向けてくる。

「で? 山本は掴まれてんの? 胃袋」
「え。………俺は対象外じゃないかな」

 一瞬、なんのことかわからなかったけど、――ああ、そうか。さっきの手料理で掴むって話か。あれは什三くんの冗談だけど、仮に万が一本当だとしても、俺には関係ない。そう返すと、何故か水都くんは爆笑し、什三くんは顔を顰めた。

「全然ダメじゃん!」
「うっせ」

 ――だって、もし、万が一、俺も含まれるとしても。
 胃袋どころか、俺はもう、心臓ごとまるごとぜんぶ什三くんに掴まれている。



posted by GINGER BERRY at 17:26| 第13弾真夜中は落ちこぼれ